2013年6月3日月曜日

パンドラ放浪記:80年代の陽気な狂気

Borderlands 2のストーリー・ミッションに『ブライトライツ フライングシティ』というミッションがあります。

Borderlandsはゲーム自体が80年代へのオマージュになっていますが、この「ブライトライツ フライングシティ」も80年代の米国小説「ブライト・ライツ、ビッグ・シティ」に由来すると思われるので、ちょっと脱線気味に80年代に関する四方山話。

都市生活者の孤独を描いた「ブライト・ライツ、ビッグ・シティ」は、「80年代のサリンジャー」と称されたジェイ・マキナニーのベストセラー。邦書は、作家の高橋源一郎氏の翻訳で1998年に新潮社から出版されました。現在は絶版ですが、中古書は比較的容易に入手可能なようです。

「ブライト・ライツ、ビッグ・シティ」はマイケル・J・フォックス主演で映画化もされています。邦題は「再会の街」。こちらの作品はブルーレイどころかDVD化もされていませんが、映画の方も秀作です。

「ブライト・ライツ、ビッグ・シティ」同様、80年代の都市生活者の孤独を描いた映画に、アベル・フェラーラ監督の「バッド・ルーテナント」という作品があります。最近DVD化されましたが、米国ではブルーレイも発売されたのに、なぜか日本語版はDVDのみ。

単に同時代の作品というだけではなく、「ブライト・ライツ、ビッグ・シティ」と「バッド・ルーテナント」には共通項があります。

どちらの作品も主人公には名前がありません。

「ブライト・ライツ、ビッグ・シティ」の主人公は「君」。つまり「ブライト・ライツ、ビッグ・シティ」は二人称で書かれた小説です。

「バッド・ルーテナント」の主人公は、タイトルの通り警官ですが、やはり名前は登場せず、クレジットにはルーテナント(警部補)を意味するLTという略号が表記されるだけです。

「ブライト・ライツ、ビッグ・シティ」の主人公も「バッド・ルーテナント」の主人公も、仕事中だろうとオフだろうと、昼だろうと夜だろうと、薬(コカイン)をやりまくります。80年代を体験していない世代には破滅的な人格破綻者に思えるかもしれませんが、当時はこういう人たちが沢山いたのですよ。だから「ブライト・ライツ、ビッグ・シティ」の主人公も「バッド・ルーテナント」の主人公も名前が無いんです。どちらの作品も主人公は読者・観客自身だからです。

ここからは歴史のお話。

米国では過去何度か麻薬のブームがありましたが、80年代のコカイン・ブームが過去の麻薬ブームと一線を画したのは、コカインの常習者が特定の社会階層に限定されず、都市生活者全般に広まったことです。

この空前のコカイン・ブームによって、中南米の麻薬密売組織は莫大な利益を手にし、国家権力を凌ぐほどに巨大化します。

麻薬密売組織があまりにも強大になったため、通常の警察力ではコカインの流入を食い止めることができないと判断した米国政府は、軍事力の投入を決意し、1989年に麻薬密輸の中継地点になっていたパナマに軍事侵攻します。いわゆる麻薬戦争の始まりです。

80年代は日本も米国も不動産景気で経済は好調な時代でしたが、一方で麻薬の濫用が社会問題を通り越えて国際政治問題になるほど病んだ時代でもありました。

Borderlands 2をプレイしていたら、そんな80年代の陽気な狂気を思い出してしまったわけでして。

なお、かつては麻薬密売組織の名前にもなったコロンビアのメデジン市は、ウォールストリート・ジャーナルとシティグループ(銀行)が実施した「今年の最も革新的な都市(Innovative City of the Year)」コンテストで「最も革新的な都市」に選ばれています。

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